「マニュアルがまったくない。何をどう引き継げばいいのか分からない……」
新しくIT担当になった方が最初に直面するのが、こうした「何も整っていない現実」です。
特に中小企業では、IT環境が属人的に管理されていることも多く、担当が代わるたびに「前任者の頭の中だけにあった知識」が消えていってしまいます。
こんにちは、こんばんは。TechAtlas(てっくあとらす)です。
これまで全国9,000社以上の中小企業のIT支援を行ってきましたが、「まず最初にやってよかった」と多くの企業が実感しているのが、"自社専用のIT基本マニュアル"の整備です。
この記事では、ゼロからでも取り組めるITマニュアル(=基本マニュアル)の作り方を紹介します。
エクセル1つから始められる内容なので、今日からすぐに取りかかれます。
- なぜITマニュアルが必要なのか?
- ITマニュアルに何を書くべきか?
- ITマニュアルの作り方【ステップ別】
- マニュアルを継続的に更新する
- より良いマニュアルにするためのコツ
- 段階的にマニュアルを拡充する
- マニュアル作成に役立つツール
- まとめ
なぜITマニュアルが必要なのか?
まず、ITマニュアルがなぜ必要なのかを理解しましょう。
1. 同じ質問が繰り返される
よくある光景:
- 「パスワードを忘れたんですが…」(今週3回目)
- 「プリンターの使い方、また教えてください」(同じ人から)
- 「このエラー、前にも出たけど解決方法は?」(過去に対応済み)
マニュアルがないと、IT担当者は同じ質問に何度も答えることになります。
マニュアルがあれば:
- 「マニュアルの○ページを見てください」で済む
- 社員が自分で解決できる
- IT担当者の時間が大幅に削減される
2. 属人化のリスク
「前任者しか知らない設定」「〇〇さんに聞かないと分からない」
こうした状況は非常に危険です。
リスク:
- 担当者が休んだら、誰も対応できない
- 退職したら、すべての知識が失われる
- 引き継ぎに膨大な時間がかかる
マニュアルがあれば:
- 誰でも対応できる
- 引き継ぎがスムーズ
- 新人も早く戦力になれる
3. トラブル対応が遅れる
「この前も同じトラブルがあったけど、どう対応したっけ?」
過去の対応方法が記録されていないと、毎回ゼロから調べ直すことになります。
マニュアルがあれば:
- 過去の対応方法をすぐに確認できる
- トラブル対応が迅速になる
- 同じミスを繰り返さない
マニュアルは、IT担当者を助ける最強のツールです。
ITマニュアルに何を書くべきか?
すべてを完璧に書こうとすると挫折します。まずは最低限の項目から始めましょう。
最優先で作るべき5つのマニュアル
1. パスワードリセット手順
最も質問が多い項目です。
記載内容:
- パスワードを忘れた時の対処方法
- 誰に連絡すればいいか
- リセットにかかる時間
- 再設定の手順(画面キャプチャ付き)
例:
【パスワードを忘れた場合】 1. IT担当者(内線: 1234)に連絡 2. 本人確認(社員番号と氏名) 3. 仮パスワード発行(10分以内) 4. 初回ログイン時に新パスワードを設定
2. よくあるトラブルと解決方法
繰り返し発生するトラブルをリスト化します。
記載内容:
| トラブル | 解決方法 | 所要時間 |
|---|---|---|
| プリンターが印刷できない | 1. 電源を確認 2. 用紙を確認 3. 再起動 |
5分 |
| インターネットに繋がらない | 1. Wi-Fi接続を確認 2. ルーター再起動 3. IT担当者に連絡 |
10分 |
| メールが送信できない | 1. 添付ファイルサイズ確認(10MB以下) 2. 宛先アドレス確認 3. IT担当者に連絡 |
5分 |
3. 社内システムの使い方
社内で使っている主要システムの基本操作をまとめます。
記載内容:
- ログイン方法(URLとアカウント情報の取得方法)
- 基本的な操作手順
- よく使う機能の説明
- 画面キャプチャ(どのボタンをクリックするか)
例:
【勤怠管理システムの使い方】 1. ブラウザで https://kintai.hogehoge.com にアクセス 2. 社員番号とパスワードでログイン 3. 「出勤」ボタンをクリック 4. 退勤時は「退勤」ボタンをクリック ※パスワードを忘れた場合は、P.5「パスワードリセット手順」参照
4. セキュリティルール
社員が守るべきセキュリティの基本ルールです。
記載内容:
- パスワード管理のルール
- メール添付ファイルの注意点
- USBメモリの使用ルール
- 社外へのデータ持ち出しルール
- 不審なメールの対処方法
例:
【パスワード管理ルール】 ❌ やってはいけないこと: - 付箋に書いてモニターに貼る - 他人に教える - 同じパスワードを複数のサービスで使う ✅ やるべきこと: - パスワード管理ツール(Bitwarden)を使う - 2種類以上の文字種で、12文字以上のパスワードにする
5. IT機器の貸出・返却ルール
ノートPCやモバイルWi-Fiなどの貸出ルールを明確にします。
記載内容:
- 貸出申請方法(誰に、いつまでに)
- 返却期限
- 故障・紛失時の対応
- 持ち出し禁止機器
例:
【ノートPC貸出ルール】 1. 使用予定日の3日前までにIT担当者にメール申請 2. 申請内容: 使用目的、期間、持ち出し先 3. 貸出時に「貸出簿」に記入 4. 返却時にIT担当者が動作確認 5. 故障・紛失時はすぐにIT担当者に連絡 ※社外持ち出し時は上長の承認が必要
ITマニュアルの作り方【ステップ別】
実際にマニュアルを作成してみましょう。
ステップ1: まずはExcelで作る
最初から立派なシステムを使う必要はありません。Excelで十分です。
推奨フォーマット:
シート1: 目次
1. パスワードリセット手順 → シート2 2. よくあるトラブル → シート3 3. 勤怠管理システムの使い方 → シート4 4. セキュリティルール → シート5 5. IT機器貸出ルール → シート6
シート2以降: 各項目の詳細
メリット:
- 誰でも編集できる
- 無料で始められる
- 画像も貼り付けられる
デメリット:
- 複数人での同時編集がしにくい
- バージョン管理が面倒
所要時間:
- 最低限の5項目: 半日〜1日
ステップ2: 画面キャプチャを活用する
文字だけでは分かりにくい操作は、画面キャプチャを入れましょう。
画面キャプチャの撮り方(Windows):
Windows + Shift + Sキーを押す- キャプチャしたい範囲を選択
- クリップボードにコピーされる
- Excelに貼り付け(Ctrl + V)
画面キャプチャのコツ:
- 重要な部分を赤枠で囲む
- クリックするボタンに矢印を追加
- 画像に番号を振る(①、②、③…)
おすすめツール:
- Snipping Tool(Windows標準)
- PrintScreen/ Screen Shot(Windows標準)
- Screenpresso(無料・注釈機能あり)
ステップ3: 他の社員に見てもらう
マニュアルができたら、実際に社員に使ってもらいましょう。
テスト方法:
1. 数名の社員にマニュアルを渡す
2. 実際の作業をマニュアルだけで実施してもらう
3. 分かりにくい点をフィードバックしてもらう
よくあるフィードバック:
- 「この用語が分からない」→ 用語を平易な言葉に置き換える
- 「手順が足りない」→ 省略していたステップを追加
- 「画像が小さくて見えない」→ 画像を拡大
ステップ4: 保存場所を決める
マニュアルを作っても、誰もアクセスできなければ意味がありません。
保存場所の候補:
1. 社内共有フォルダ
- 例: Z:\IT部\マニュアル\ITマニュアル.xlsx
- メリット: アクセスが簡単
- デメリット: 検索しにくい
2. 社内Wiki・ポータル
- 例: Notion、SharePoint
- メリット: 検索しやすい、複数人で編集しやすい
- デメリット: 初期設定が必要
3. クラウドストレージ
- 例: Google Drive、OneDrive
- メリット: どこからでもアクセス可能
- デメリット: アクセス権限の管理が必要
おすすめ:
- 最初は共有フォルダで十分
- 将来的にWikiやポータルへ移行
ステップ5: 周知する
マニュアルを作ったら、全社員に周知しましょう。
周知方法:
1. 全体メールで案内
件名: 【重要】ITマニュアルを作成しました 社員のみな様 IT担当の○○です。 このたび、社内のITに関するマニュアルを作成しました。 保存場所: Z:\IT部\マニュアル\ITマニュアル.xlsx 【マニュアルの内容】 - パスワードリセット手順 - よくあるトラブルと解決方法 - 勤怠管理システムの使い方 - セキュリティルール - IT機器貸出ルール 困ったことがあれば、まずマニュアルを確認してください。 マニュアルで解決しない場合は、IT担当者(内線: 1234)までご連絡ください。 よろしくお願いいたします。
2. 朝礼や会議で説明
実際にマニュアルを開いて、使い方を説明します。
3. 共有部に案内を貼る
「困ったらマニュアルを見よう!」と書いた案内を共有部に貼ります(社長や総務に確認してから)。
マニュアルを継続的に更新する
マニュアルは一度作って終わりではありません。
更新すべきタイミング
1. システムがアップデートされた時
画面や操作手順が変わったら、すぐにマニュアルを更新します。
2. 新しい質問が来た時
「マニュアルに載っていないことを聞かれた」→ マニュアルに追加
3. トラブルが発生した時
新しいトラブルと解決方法を記録します。
4. 社員からフィードバックがあった時
「この説明が分かりにくい」→ 修正
更新履歴を記録する
マニュアルの最後に「更新履歴」を追加しましょう。
例:
| 更新日 | 更新者 | 更新内容 |
|---|---|---|
| 2025-01-15 | 田中 | 初版作成 |
| 2025-02-10 | 田中 | パスワードリセット手順を追加 |
| 2025-03-05 | 佐藤 | プリンタートラブルの項目を修正 |
より良いマニュアルにするためのコツ
1. 専門用語を避ける
❌ 悪い例: 「DHCPサーバーからIPアドレスを取得できない場合は、スタティックIPを設定してください」
✅ 良い例: 「インターネットに繋がらない場合は、IT担当者に連絡してください」
IT知識がない社員にも分かる言葉を使いましょう。
2. 「誰が」「何を」「どうする」を明確にする
❌ 悪い例: 「パスワードをリセットする」
✅ 良い例: 「社員が」パスワードを忘れた時、「IT担当者に」連絡して「リセットしてもらう」
3. 手順は番号を振る
❌ 悪い例:
ログインして、メニューを開いて、設定をクリックして…
✅ 良い例:
1. ログインする 2. 画面右上の「メニュー」をクリック 3. 「設定」を選択
4. 所要時間を書く
「このマニュアルを見れば、どれくらいで解決できるか」が分かると安心です。
例:
【プリンターが印刷できない】 所要時間: 5分 1. プリンターの電源を確認(1分) 2. 用紙を確認(1分) 3. プリンターを再起動(3分)
5. FAQ(よくある質問)を追加する
マニュアルの最後に、よくある質問をまとめます。
例:
【FAQ】 Q: パスワードを忘れました。どうすればいいですか? A: P.2「パスワードリセット手順」を参照してください。 Q: プリンターで印刷できません。 A: P.8「よくあるトラブル」の「プリンターが印刷できない」を参照してください。 Q: マニュアルに載っていない問題が発生しました。 A: IT担当者(内線: 123)に連絡してください。
段階的にマニュアルを拡充する
最初から完璧なマニュアルを作る必要はありません。少しずつ拡充していきましょう。
フェーズ1: 最低限のマニュアル(1週間)
- パスワードリセット手順
- よくあるトラブル3つ
- 主要システムの使い方1つ
目標: とにかく形にする
フェーズ2: 充実させる(1ヶ月)
- セキュリティルール
- IT機器貸出ルール
- よくあるトラブルを10個に拡充
目標: 日常的な問い合わせの50%をカバー
フェーズ3: 本格運用(3ヶ月)
- 全システムの使い方
- トラブルシューティング完全版
- ネットワーク構成図
- 機器一覧
目標: ほとんどの問い合わせをマニュアルで解決
マニュアル作成に役立つツール
無料ツール
1. Notion(ノーション) - Wiki形式でマニュアルを作成 - 検索機能が優秀 - 無料プラン: 個人利用は無料
公式サイト: https://www.notion.so/
2. Google ドキュメント / スプレッドシート - Excelと同じ感覚で使える - 複数人での同時編集が可能 - 無料
公式サイト: https://workspace.google.com/
まとめ
今回のポイントをまとめます。
- ポイント1: ITマニュアルは「同じ質問の削減」「属人化解消」「トラブル対応の迅速化」に効果的
- ポイント2: まずは「パスワードリセット」「よくあるトラブル」「システムの使い方」「セキュリティルール」「機器貸出ルール」の5項目から
- ポイント3: 最初はExcelで十分。画面キャプチャを活用して分かりやすく
- ポイント4: 一度作って終わりではなく、継続的に更新することが重要
ITマニュアルは、IT担当者の最強の味方です。
「完璧なマニュアル」を目指すのではなく、「まずは1ページでもいいから作ってみる」ことが大切です。
今日からExcelを開いて、「パスワードリセット手順」の1ページを作ってみましょう。それが、あなたの会社のIT環境を変える第一歩になります。
TechAtlas(てっくあとらす) 元・中小企業ITインフラ支援部門責任者 | 9,000社以上の IT環境を支援してきた経験をもとに、IT初心者に寄り添う情報を発信中
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